◆文化財の重要度とは関係ない?設備設置の義務づけ

 

首里城の火災から2か月がたとうとしています。

法令上ではスプリンクラーの設置義務がなかったと報道されましたが、

とても重要な文化財なのに設置義務がなかったのはなぜ?と感じる人も多かったのではないでしょうか。

消防法での設置の義務付けは、建物の規模や用途・収容人数などの、「火災の危険性」にもとづいています。
「文化財の重要度が高いのでスプリンクラーの設置が義務」というような基準はありません。

かわりに、「用途」によって規定されている部分があります。
 

◆重要文化財では自火報は必ず設置

自動火災報知設備は、寺社仏閣(寺・神社)においては1000㎡以上のみに設置義務があるのに対して、

重要文化財である建物に関しては、すべてに設置することとされます。

自動火災報知設備は、火災が起きたことをすばやく知らせる優秀な設備です。

この設備で、いち早く火災が起きたことを察知し、小火(ぼや)の時点で消火できるのが理想といえます。

この「報知(知らせる)設備」に対して、「消火設備」といえば消火器、消火栓、そしてスプリンクラーですが…

 

防火と文化財保護の両立のむずかしさ

スプリンクラーは、非常に消火性能が高い設備です。スプリンクラーが成功させた初期消火の95%は、ヘッド1つの放水で事足りています。

ですが、木造の文化財で設置しているケースは非常に少ないとのこと。

文化庁は、重要文化財の建築物約4800件のうちスプリンクラーを設置しているのは約80件にとどまるという調査結果を出しています。

木造建築での設置が進まないのは、スプリンクラーのデメリットが関係していると思われます。

水源(消火水槽設備)確保・建物全体に設備を張り巡らす必要のある大規模な設備
であること、

熱・煙などを感知すると自動で大量の水を放水するため、展示保管されている文化財や、文化財である木造建築そのものが、損害を受ける可能性があることなどがデメリットにあたります。

火は消せても、文化財が水でだめになるかもしれない……というのは非常に難しい問題ではないでしょうか。
現在の文化庁のガイドラインでは、ガス消火設備等を代わりに設置することなどが推奨されていますが、こちらも特徴や制約がいろいろとあります。

また、必要なのは消火設備だけではなく…

 

◆出火原因は…

文化財における出火原因の実に60パーセント以上が放火または放火疑いです。

近畿地方の9年間の出火原因/放火のうち、出火箇所をまとめた消防庁のデータによると、圧倒的に屋外からの放火が多いのです。

屋内設備が対応する範囲外での出火は気づきにくいので、監視カメラ・防犯センサーなどによる監視に力を入れている寺社もあり、色んな対策が必要なことがわかります。

さらに、設備面以外にも現場には難しい問題があるようです。

 

◆文化財を守る人々の状況

令和元年のノートルダム大聖堂火災を受けて文化庁が行った緊急アンケート調査の結果によると、世界遺産または国宝において、約2割が

・消防設備の設置・改修後30年以上経過のため機能低下しているおそれがある

とのこと。ほかにも

・高齢化や担い手不足のため、夜間など管理体制に必要な人員が確保できない
・同様に、消火栓など二人以上の人員が必要な設備に人手が回せない

といった回答が出されていました。

実際に火災が起きた際、「知らせる人」「初期消火をする人」「避難誘導する人」といったように手分けすれば時間の短縮になり、被害の軽減に直結するため、人員確保は非常に重要です。こちらも非常に大きな問題といえます。
 

参考/文化庁HP https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/2010/
重要文化財建造物等に対応した防火対策のあり方に関する検討会報告書(最終報告書)

これに関連の深い、別の問題もあります。

 

◆訓練の実施も難しい現状

令和元年の文化庁の調査結果では、世界遺産・重要文化財における訓練の実施について

・年間当たり「0回超~2回未満」という回答が最も多かった

・年に1回未満しか訓練が実施できない理由には「協力者がいない」「設備が老朽化して使うことができない」という意見がだされている

ということでした。

では地域ぐるみで建物を活用しよう…という方向にもっていこうとすると、また別の問題があります。

 

◆守るための「活用」とそれに伴う「用途変更」

最近では、文化財や古い建物をカフェ・レストランや旅館・博物館として改装・活用することで、地域への貢献や資金確保につなげるという、新しい形で文化財を守って成功しているケースがみられます。

たとえば古民家カフェは、建物の良さを味わいながらゆったりと過ごせるということで人気があります。

ですが、実際にこれを実現しようとすると、

・建物の用途変更に対応しなければならない

・多くの人が出入りすることで損傷があるかもしれない

・歴史的建造物の特徴を残したままでは現行の建築基準法に対応できない

といった問題に直面します。

後者に関しては、平成26年4月、国土交通省から「歴史的建築物の活用等が円滑に行われるよう、個別の審議を経ずに、建築基準法の適用外を認める仕組みを推進する」という通達があり、

各都道府県では、条例を制定する動きも出てきていますが、条例が制定されている市町村はごく一部(神戸・京都・横浜・藤沢など)のようです。

歴史的建築物が多く、観光に力を入れている鎌倉市は、現在積極的に検討をつづけている模様です。

また、「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」も平成30年3月に作成され、各地での進展が今後期待されます。
 

◆まとめ◆

以上のことから、

重要文化財の防火に関して

・スプリンクラーの設置が進まないのは水損の可能性などデメリットがあるため

・放火が多く、多面的な警戒が必要

・管理体制に必要な「人員」が十分な場所ばかりではない

・「活用」のための法令の整備は現在進行形で少しずつ進んでいる
といった状況があるといえます。

 

◆ケースにあわせて対策

現在、「炎センサー」「自動で旋回する放水銃」など、人手がなくても動作する設備が開発され、人員不足の現場での貢献が期待されます。

特に消火栓は、従来のものは2人で操作する必要があり、また操作が非常に難しく練習が必要です。

人手の確保が容易でないところでは「易操作型消火栓」という、操作が一人でもできる消火栓を利用することも選択肢に入れることが推奨されています。

※易操作性消火栓について詳しくはこちら(ここでは2号消火栓と紹介しています)消火栓設備について/カワゾエブログ内コラム

このように、「人員が少ない」体制に適した設備を設置するような、建物の特性や状況に対して有効な対策をとることが必要だと、文化庁のガイドラインでも示されています。

文化庁HP / 国宝・重要文化財(建物)の防火ガイドライン
 

◆設備を「使える」ようにしておく

設備の性能も大事ですが、「いつでも使える状態にしておくこと」は、きわめて大事です。

消火器も、いざというときに「見つからない」「使えない」といった状態では力を発揮できません。
定期的な点検や訓練は、設備の状態の確認・使い方の再確認のきっかけになります。

設備の点検の際、不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

また、設備の改修・取り換えの際、もっと「使いやすい」設備にしたいといったご相談、

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