二酸化炭素消火設備ではたびたび事故が起きている…毒性の低いガス設備はある?
もう生産していないのに設置されている、「ハロン1301」とは?

「不活性ガス消火設備」 「二酸化炭素消火設備」 「ハロゲン化物消火設備」…これらにどんな違いがあるのかともあわせて、簡単にまとめてみました。

こちらで紹介している以外にも、ガスの特性・設備に関する規定・条件・要素等は多くあります。あくまで概要のため、詳しい情報が必要な場合は正式な機関の発行している資料のご参照をお願いします。

★そもそもガス消火設備って?

気体で炎を消す、「水を使わない消火設備」です。

スプリンクラーや放水の水によって建物・物品が被害を受けることを「水損」といいますが、その心配がありません。

高額なコンピューターやサーバーデータはもちろん、図書館の書籍や美術品も、水濡れすると復元には大変な時間や労力かかります。場合によっては復旧不可能になることも。

ガス系の消火設備は、水損の被害が大きい書籍やコンピューター室、美術系の収蔵品などを守るのに適しています。

適した場所の例
サーバー室・通信基地局・図書館の書架、美術品や文化財の保管庫、ケーブル室など。

コンピューター室に関してですが、 ガス設備の放射音がHDD等の電子機器に影響を与えることがわかり、 格納ラックの防音や、静音タイプの噴射ヘッド (影響がゼロになるわけではないとのこと)の採用などの対策があげられています。

★電気絶縁性・浸透性・安定性◎

消火用水が電気機器にかかってしまった場合はショートなどのおそれがありますが、ガス消火設備の場合は心配いりません。

気体なので、熱ダメージさえなけえれば、機器類はすぐに使用できるほど。もちろんガスが排出されるまで待ってのことです。

浸透性(隙間などにも通る)・安定性も高く、変質しにくく、半永久的に保存が可能。

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★放出方式と設置対象

放出方式は3種類。

・固定式(全域放出方式)
・固定式(局所放出方式)
・移動式

全域放出方式には少し特殊な制約があります。

全域放出方式とは、簡単に言うと特定の区域(防護区画)を密閉し、そこにガスを放出し、その区域の酸素濃度を下げるというやり方を指します。

設置条件の一部

・防護区画を通ることなく出入りできる場所に設置する
・不燃材料で作られた壁・柱・床または天井(天井のない場合は屋根)で区画され、開口部の防火戸を設けた専用の部屋に設ける…等

後者は、密閉状態になる前に、壁などが燃えて崩壊してしまうと、濃度が保てなくなるためです。ほかには歩行での避難距離など。

文化財、とくに木造建築物は水に弱いため、スプリンクラーが設置できない場合にガス系消火設備が推奨されていますが、実際にはあまり設置が進んでいない状況に、このあたりの条件が絡んでいるかもしれません。

全域放出以外の方式ですが……

移動式…その場所に設置されたボンベから、屋内消火栓のようにノズルを引っ張って人が使用する方式。
固定式(局所放出方式)…周囲に適当な壁がない・天井が高い等の場合に、防護対象物の傍にノズルを設置し、直接不活性ガスで覆って消火する方式。

ガスごとに設置可能な方式とそうでない方式があり(図参照)設置対象によって適用可能なものが違います。

★ガスの種類とその特性

「不活性ガス消火設備」と「ハロゲン化物消火設備」について。

「不活性ガス消火設備」で使われるガスは簡単に分類すると2種です。

二酸化炭素
窒素または窒素・アルゴン等の混合ガス
  (窒素/IG-55/IG=541)

二酸化炭素ガスは、ガス消火設備ではもっとも多く設置されています。アルゴンは、大気中に窒素・酸素に次いで3番目に多く含まれている気体のこと。

「ハロゲン化物消火設備」は、ハロゲン化物と総称されるものを利用しているガス消火設備です。

ハロン消火設備につかわれているハロン1301は、そのなかでも臭素を含むもの。エアコンなどへの使用で問題視された「フロン」もハロゲン化物の一種です。

「不活性ガス消火設備」「ハロゲン化物消火設備」の違い…

この2種は放出方式等は同様ですが、消火原理が違います。窒素系・二酸化炭素ガスは酸素濃度を下げることで消火し、ハロゲン化物消火設備は、その物質の性質で燃焼を抑制して消火※するものです。(※ 「燃焼面の遮断」としての窒息効果もあります )

★ガス消火設備の安全対策

ハロン1301以外は安全面を考慮し、基本的に”人がみだりに出入りしない場所“に設置されます。特に全域放出方式においては安全対策に関する規定が多くあります。区画内やその近辺ににいる人の安全のためです。以下はその一部。

・防護区画は2方向避難を確保
・起動時にはあらかじめ「音声」で退出警告をする
「ただいまより二酸化炭素の放射が始まります。速やかに室外に退避してください。」
・出入口のドア上部には放出表示灯を標示

起動は「手動」で行うのを原則とします。自動火災感知器と連動させると危険なためです。

起動装置は、装置の扉を開いた時点で警報が鳴る仕組み。サイレンと音声警報が鳴ります。そのあと起動ボタンを押すことで防護区画が密閉され、20秒後(二酸化炭素ガスの場合)に噴射ヘッドからガスが放出…といった流れになります。

特に、二酸化炭素ガスはその毒性から、この遅延措置としての秒数を20秒以上必須とします。

平成9年に追加された「安全対策ガイドライン」ではさらに安全対策が追加。

出入口の上部に、作動中は”二酸化炭素が充満・危険・立ち入り禁止”と表示される放出表示灯の設置・該当区画内と出入りする扉のわかりやすい位置に、注意銘板を設置することなども指示されています。

また、容器弁は安全点検を必要とします。必ず、定期的な点検を。
参考/ニッタン ガス系消火設備容器弁点検https://www.nittan.com/houjin/maintenance/tenken05-youki_ben.html

★二酸化炭素ガス

・冷却効果とあわさって優れた消火性能を持つ
・省スペース( 液化炭酸として充填し保存できる)
・低コスト

必要とする貯蔵容器の本数が窒素より少ないので、貯蔵容器自体のメンテ費用もおさえられます。

短所は大きなもので…

・濃度が高くなると人体に非常に有害である

消火に必要な濃度では、生命に危険が及ぶことがあります。昔から利用されている二酸化炭素ガス設備ですが、事故がたびたび起きており、安全対策や管理の徹底が求められています。

また、二酸化炭素ガスは、放出時の視界が非常に悪くなります。

窒素やアルゴン・アルゴンと窒素の混合ガス

・物質を変質させにくい
・環境にやさしい

博物館・美術館などでは窒素ガスがよく選ばれる傾向。また、オゾン層にも温暖化にも影響ががない。ガス設備の中では、放出時の視界がもっとも良好とのこと。

・省スペース性が他より劣る

また、窒素自体には毒性がありませんが、 二酸化炭素ガス設備同様に、酸素濃度を低下させて消火するため、基本的に「有人区画」では設置不可です。(※条件を満たせば例外も)

現在、「有人区画」に設置可能なガスは、ハロン1301のみです。

★ハロン1301、非常に優れているが…

「ハロゲン化物消火設備」とばれる設備に使われる、「ハロンガス」の一種、ハロン1301は…

・人体に対する毒性が低い
・省スペース
・比較的低コスト

消火に必要な濃度は7%前後。
5%~7%程度から10%前後までは、眠気・軽い頭痛といった、一時的な気分不良のような症状を起こす程度の影響しかなく、基本的に人体には低毒性。
また二酸化炭素・窒素系のガス設備とは消火原理が違い、空気中の酸素濃度はほとんど低下しません。

ただし、消火の際(実際に火災だった場合)には、主に臭化水素やフッ化水素のような、毒性と刺激性を持った熱分解生成物が生じるリスクがあります。

貯蔵場所の省スペース性については最も優れています。


参考/Wikpedeia ハロン1301(ブロモトリフルオルメタン)

大きな欠点が…

・オゾン層に影響のある物質である

ということ。そのため、管理(回収やリサイクル)を徹底して配備されています。この点、窒素系ガスは自然に優しく、環境に影響を与えません。

ただ現在ハロン1301以上に、総合的に性能の高いガスが現れていません。

そのためハロン以外に適切な消火剤がない場合のみ「クリティカルユース」として設備への利用を認める…という形で、ハロン1301は運用されています。

クリティカルユースとは、簡単に言うと「ハロン1301以外の設備では、消火時に二次被害が起こる」とみなされる場所です。

★どんな管理が行われている?

ハロン系消火剤は、オゾン層保護のために国際的に生産・消費・貿易が規制され、1994年に生産全廃とされました。

生産全廃となったのなら「もう使えなそう」という印象を抱きますが、実際はそうじゃないとのこと。
この誤解なども要因なのか、ハロン1301は現在「適した設置用途とその余地がありながら、それほど利用されていないのが現状」のようです。

現在は、回収とリサイクルをすることで、適正な設置・維持・不用意な排出防止・排出抑制を行っている状況です。この管理は、NPO法人のハロンガス管理団体が行っています。

消防庁や政府団体では、適応する場所でのハロンの活用を薦めています。

★ハロン1301設置に関する誤解例

・「生産全廃ならもう使えなそう、使えても有限、継続使用ができなさそう」

実際にはリサイクルによって十分な量が確保されており、供給よりも回収量の方が上回っているのが現状。あと70年~100年は継続して供給が可能とのことです。

・「環境に悪い」

現在オゾンホールは回復傾向にあると国連から発表されています。日本は、ハロン1301の回収・再利用システムが評価され、国際的な賞も受賞。排出状況は世界で最も少ないという状況とのこと。管理がよく行き届いていると考えてよさそうです。

・「ハロン使用抑制という通知や、改正があったと思う」

155号通知の「ハロン使用抑制」というタイトルだけを見ると、ハロン消防設備自体を忌避したほうが良いようなイメージを抱いてしまいますが…
適切な使用と管理・リサイクルを行うことを前提として、「適切」でない場所には使わないことを「使用抑制」としています。

改正された用途例の表も、”厳しくした”というよりは”明確に”示しているようです。

用途例(115号通知改正後)

使用用途の種類 用 途 例
通信機関係等 通信機室等 通信機械室、無線機室、電話交換室、磁気ディスク室、電算機室、サーバ室、信号機器室、テレックス室、電話局切替室、通信機調整室、データプリント室、補機開閉室、電気室(重要インフラの通信機器室等に付属するもの)
放送室等 TV中継室、リモートセンター、スタジオ、照明制御室、音響機器室、調整室、モニター室、放送機材室
制御室等 電力制御室、操作室、制御室、管制室、防災センター、動力計器室
発電機室等 発電機室、変圧器、冷凍庫、冷蔵庫、電池室、配電盤室、電源室
ケーブル室等 共同溝、局内マンホール、地下ピット、EPS
フィルム保管庫 フィルム保管庫、調光室、中継台、VTR室、テープ室、映写室、テープ保管庫
危険物施設の計器室等 危険物施設の計器室
歴史的遺産等 美術品展示室 /重要文化財、美術品保管庫、展覧室、展示室
その他 加工・作業室等 /輪転機が存する印刷室
危険物関係 貯蔵所等 危険物製造所(危険物製造作業室に限る)危険物製造所(左記を除く)屋内貯蔵所(防護区画内に人が入って作業するものに限る)、屋内貯蔵所(左記を除く)
塗装等取扱書 充填室、塗料保管庫、切削油改修室、
危険物消費等取扱書 ボイラー室、焼却炉、燃料ポンプ室、燃料小出室、詰替作業室、暖房機械室、蒸気タービン室、ガスタービン室、鋳造所、乾燥室、洗浄作業室、エンジンテスト室
油圧装置取扱書 油圧調整室
タンク本体 タンク本体、屋内タンク貯蔵所、屋内タンク室、地下タンクピット、集中給油設備、製造所タンク、インクタンク、オイルタンク
浮屋根式タンク 浮屋根式タンクの浮屋根シール部分
lpガス付臭室 都市ガス、LPGの付臭室
駐車場 自動車等修理場 自動車修理場、自動車研究室、格納庫
駐車場等 自走式駐車場、機械式駐車場(防護区画内に人が乗り入れるものに限る)、機械式駐車場(左記を除く)スロープ、車路
その他 機械室等 エレベーター機械室、空調機械室、受水槽ポンプ室
厨房室等 フライヤー室、厨房室
加工、作業室等 工学系組み立て室、漆工室、金工室、発送室、梱包室、印刷室、トレーサー室、工作機械室、製造設備、溶接ライン、エッチングルーム、裁断室室
研究試験室等 試験室、技師室、研究室、開発室、分析室、実験室、計側室、最近室、伝播暗室、病理室、洗浄室、放射線室
倉庫等 倉庫、梱包倉庫、収納室、保冷室、トランクルーム、紙庫、廃棄物庫
書庫等 書庫、資料室、文書庫、図書室、カルテ室
貴重品等 金庫室、宝石・毛皮・貴金属販売室
その他 事務室、応接室、会議室、食堂、飲食店

示された「用途例」に、「自物件の用途に適するものがない」
「判断がつかない」、という場合は…

★クリティカルユースにあたるか、どう判断する?

実際には、市町村の消防設備等に関する審査基準を参照します。

↓クリティカルユースにあたるかどうかの考え方(抜粋)
参考・引用 千葉市HP千葉市消防局 消防用設備等設置基準

原則 [他の消火設備によることが適当でない場合]
②設置される防火対象物全体ではなく、設置する部分ごとにその必要性を検討
人の存するする部分かどうかを先に考え、そのあとに検討

③の人が存する部分とは、

 ●不特定の者が出入りするおそれがある部分
 ・不特定の者が出入りする用途に用いられている
 ・施設管理又はこれに準ずる出入管理が行われていない

 ●特定の者が常時介在する部分又は頻繁に出入りする部分
 ・居室に用いられる
 ・人が存在することが前提で用いられる(有人作業を行うための部分等)
 ・頻繁に出入りが行われる部分(おおむね一日2時間以上)

「人が存するかどうか」によって、「ほかに適する設備がないか」の検討対象が変わってきます。

・「人が存する」なら水系消火設備が適しない場合※1
・「人が存しない」ならガス系・水系消火設備が適しない場合※2

に、ハロン消火剤を用いることができる。

「人が存する」※1水系消火設備が適しないケース例
  ・消火剤が不適/電気火災、散水障害等
  ・消火剤が放出された場合の被害が大きい/水損、汚染の拡大
  ・機器等に早期復旧の必要がある/水損等
  ・防護対象部が小規模なので、設置コストが非常に大きくなる

「人が存しない」※2 ガス系・水系消火設備が適しないケース例
上記に加え…
  ・消火剤が放出された場合の被害が大きい
  (他のガス系消火剤による 冷却/高圧/消火時間等の影響、汚染の拡大(原子力施設等の特殊用途に用いる施設等で室内を負圧で管理している場所に対し、必要ガス量が多いこと等)
  ・機器等に早期復旧の必要性がある(放出後の侵入の困難性等)

具体的には…用途例に記載されていない用途部分でもクリティカルユースに該当するかどうかを所轄消防本部によって総合的に判断をすることになっています。

また、判断に疑義が生じた場合、ハロンバンク推進協議会のハロン管理委員会でも個別のチェックが行われるとのことです。

適切であれば活用できるハロン1301。運用についてお考えの際には参考にしていただければと思います。
また、 市町村によっては設置基準が異なる場合があるのでご注意下さい。

参考 消防庁通達 リサイクルハロン活用ガイド
参考2 消防庁通達 「ハロン消火剤を用いるハロゲン化物消火設備・機器の使用抑制等 について」の一部改正について

当ブログ内関連記事 東京都の図書館の点検

どなたにもガス消火設備について少しでも知っていただき、より適切な設置がすすみ、事故がこれ以上起きないことを望みます。

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