宿泊施設と自動火災報知設備
ホテルに宿泊しているときに、まずすることは?
ホテル・旅館で宿泊するとき、まずは避難経路図を確認する方は多いのではないでしょうか。
念のため、部屋から非常口まで実際に歩いてみるのもいいかもしれません。
でも……避難経路図があっても、もし火災に気づけず寝てしまっていたら、そもそも逃げることができないのでは?
就寝中でも火災に気づくため、
宿泊施設は規模に関係なく火災報知設備の設置が義務付けられています。
近年厳しくなった設置基準
以前は、延べ面積300平方メートル以上のものだけが設置義務の対象でした。
とあるホテルの火災をきっかけに、平成25年4月より、旅館・ホテル・ペンション、民宿など、利用者に宿泊を提供する建物は、規模に関係なく自動火災報知設備の設置が義務とされました。1)既に営業している宿泊施設においても、平成30年3月以降は設置…という経過措置が取られました
被害が大きかった福山ホテル火災
法令改正前の基準は、小規模な建物では避難距離が短い…という理由によるものでしたが、
24年5月に広島県で起きた「福山ホテル火災」をきっかけに、法令が見直されることになりました。
この火災は夜間、利用者の就寝中に発生し、火災に気づかず逃げ遅れたことで、多くの犠牲者を出しました。2)消防上の不備・建築基準法の不備が多数放置されており、また、自動火災報知設備が設置されていましたが、2つの系統に分かれていたので火災時にきちんと連動したとは思えない、という消防の報告があります。
寝ている間の危険
法令の改正については、就寝時にほかの場所の火事に気付いて安全に避難することは難しいという部分が注目され、
夜間に起きている火災の死者発生状況から、「規模に関係なく、宿泊施設には自動火災報知設備が必須」という判断がされたとのことです。3)「一般住宅は規模を問わず、寝室に住宅用火災報知器を設置する」ことを定めた法令が平成16年に施行されており、それに対し「宿泊施設には規模次第で設置義務がない」というのは「制度上の均衡」がとれない、ということも勘案されました
自動火災報知設備の役目は?
火災は、時間とともに急速に拡大します。
「火災にいち早く気づき、知らせる」ことは、被害の軽減に直接つながります。住宅での火災報知器が義務になったのも、就寝時に出火した火災の死者が非常に多かったためです。
自動火災報知設備は、就寝中でも煙を感知し、警報を鳴らします。
設備の連動によって、ほかの部屋にいる利用者にも火災の発生を知らせることができます。
宿泊客を就寝中の火災から守るためには非常に重要な役割を果たすのです。
ですが、自動火災報知設備が設置してあっても、ほかの部分に不備があったら?
避難できる環境・火が広がらない環境づくりと防火意識の大切さ
過去の重大なホテル火災では…
・消防設備の管理上の不備(鳴動音が小さい・非火災報多発のためベルが停止されていたなど)
・増改築で避難経路が複雑化
・防火戸を機能しない状態で放置(開いた状態に固定するなど)
といった不備が重なったことで被害が拡大したとのこと。
施設側の、普段からの防火意識と設備管理・防火管理者による指導は大事だと感じます。
◇参考資料
・総務省 規制の事前評価(25年度)
※政令 自動火災報知設備に関する基準の見直し(平成25年10月)事前評価書/PDF
・Wikipedia 福山ホテル火災
防火体制がしっかりしているかどうか、どうやって知る?
適マーク・優良防火対象物の優マーク
ホテルのフロントや玄関で、紺地に銀および金のマークに「適」と書かれたものを掲げられているのを目にしたことはありませんか?
正確な画像はブログに載せることはできないので、以下の行政機関・市町村のHPから。
・消防庁HP/適マーク制度 制度の概要
・相模原市HP/安全・安心情報 表示マーク制度が始まりました
この「適マーク」は、「防火対象物にかかる表示制度」の表示マークです。特徴をいくつかあげますと
・宿泊施設側が申請するもの
・消防署が審査をし、消防法令や建築などの基準に適合していると認定されると、マークが施設に交付される
・有効期限の間、宿泊施設がマークを掲出できる
・対象は収容人数が30人以上(従業員を含む)、建物が3階建て以上といった条件あり
といったものになります。
3年以上継続して認定されると、金色の表示マークを交付されます。
有効期限があり、その期間中に更新(の申請)をしない場合は返還することになっています。
※以下に紹介する制度も含め、これ以外にも細かい規定がありますのでご注意ください。
利用者に情報を提供する
この表示制度も、福山ホテル火災をきっかけとして施行されました。以前あった制度、名称「適マーク制度(防火基準適合表示制度)」を再構築したものです。
福山市ホテル火災の被害者の宿泊客には、外国籍および国内の観光客がいました。
宿泊客にとって、遠方の宿泊施設の防火体制について判断するのは難しいことです。
このマークは、利用者にとっての判断材料になるとして制定されました。
制度への参加は義務ではなく任意です。
このマークがないからといって、消防法令に違反しているわけではなく、あくまで施設側が希望して審査をするものです。また、「情報として提供」しているものであって、安全を保障するマークではありません。
ですが、このマークを取得して維持している施設は、消防庁の提示する一定の基準に適合した防火体制をとっています。
宿泊施設のHPにも掲出されていますので、宿泊施設を利用する際は、HPでこのマークを探してみるといいかもしれません。
また、表示マークを交付された施設は、市町村や消防庁などのホームページから公表されています。
◇リンク
消防庁/適マークの交付施設を探す
こちらから全国の交付施設を確認することができます。
優マークと適マークの違いは?
中央に「適」ではなく「優」と書かれた、紺地に金の交付マークがあります。
適マークは全国で見かけることがありますが、
優マークは東京消防庁が都内の建物に交付しているものです。
こちらは優良防火対象物認定表示制度という制度の表示マークで、
・適マークと同様の制度だが、東京独自の条例に基づいた、適マークとは違った基準によって審査
・金の光沢紙に紺の地色印刷の一種のみ
・宿泊施設に限らず、都が制定した規模の防火対象物の建物が申請可能
といった特徴があります。
くわしくは
東京消防庁/優マーク制度
ほかにもある?適マーク
さらに別の、2種類のマークがあります。
防火対象物基準検定済証(セイフティマーク)
防火優良認定証(特例認定証)
この2つは
「防火対象物定期点検報告制度」のマークです。
防火対象物を対象にした全国統一のもので、
・防火対象物点検報告制度によって点検結果が消防法令に適合した場合
上図「防火対象物基準検定済証」(セイフティマーク/図柄)を関係者が表示できる
・3年以内の点検結果が優良→点検義務免除などの特例が認められた場合
下図の「防火優良認定証」(特例認定証/紺地に青)を表示できる
また、この制度の対象は、特定防火対象物で収容人員が300人以上/特定1階段等の防火対象物で収容人員が30人以上…等の指定があり、宿泊施設に関しては、適マーク制度よりも対象の幅が狭まります。
「防火管理点検」のほかに、「防災管理点検」「消防用設備等点検」のそれぞれの点検基準に適合した場合、図柄の名称部に、各点検名が加わっている図柄を表示できるとのことです。
この特殊建築物に義務づけられている「防火対象物定期点検」「防災管理定期点検」「消防用設備等点検」等は、創業50周年の歴史があるカワゾエにおまかせください。
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References
1. | ↑ | 既に営業している宿泊施設においても、平成30年3月以降は設置…という経過措置が取られました |
2. | ↑ | 消防上の不備・建築基準法の不備が多数放置されており、また、自動火災報知設備が設置されていましたが、2つの系統に分かれていたので火災時にきちんと連動したとは思えない、という消防の報告があります。 |
3. | ↑ | 「一般住宅は規模を問わず、寝室に住宅用火災報知器を設置する」ことを定めた法令が平成16年に施行されており、それに対し「宿泊施設には規模次第で設置義務がない」というのは「制度上の均衡」がとれない、ということも勘案されました |